仙台地方裁判所古川支部 昭和50年(ワ)31号 判決 1977年1月26日
原告
村山誠志
ほか三名
被告
佐々木光博
主文
被告は、原告村山誠志に対し、金三、〇九五、〇七四円及び内金二、五九五、〇七四円に対する昭和四九年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員、原告村山良子に対し金二、三五五、一二四円及びこれに対する右同日より支払済みまで年五分の割合による金員、原告橋本鉄男に対し金三、〇五二、六一七円及び内金二、五五二、六一七円に対する右同日より支払済みまで年五分の割合による金員、原告橋本さき子に対し金二、二九一、一二七円及びこれに対する右同日より支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
原告四名のその余の各請求を棄却する。
訴訟費用は三分し、その二を原告四名の連帯負担、その余を被告の負担とする。
この判決は原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一請求の趣旨及び請求の原因
(請求の趣旨)
一 被告は原告村山誠志に対し金九、一二六、〇〇〇円、原告村山良子に対し金七、四五六、〇〇〇円、原告橋本鉄男に対し金九、一五一、〇〇〇円、原告橋本さき子に対し金七、四五九、〇〇〇円、及び右各金員に対する昭和四九年四月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。
(請求の原因)
一 原告村山誠志、同村山良子は訴外村山邦宏の父母であり、原告橋本鉄男、同橋本さき子は訴外橋本敬一の父母である。
二 被告は昭和四九年三月三一日午前零時三〇分ころ、普通乗用自動車(官五五の一六〇九号車)を運転して時速七〇ないし八〇キロメートルの速度で、県道を古川市方面から小牛田駅方面に進行中、遠田郡小牛田町南小牛田字町浦一一先にさしかかつたところ、道路左端に存したコンクリート電話柱に自車を激突させ、右自動車に同乗中の村山邦宏を前頭骨骨折、脳挫傷、脳内出血、同橋本敬一を頭蓋底骨折、脳挫傷、脳内出血の各傷害により死亡せしめた。
三 右事故は被告の無謀運転又は前方注視義務違反の過失によつて生じたものであり、かつ、右自動車は被告の所有にかかるものであり運行供用者であるから、被告は民法七〇九条及び自動車損害賠償保償法第三条により、本件事故によつて生じた損害を賠償しなければならない。
四 ところで、本件事故によつて生じた損害は次のとおりである。
(一) 原告村山誠志、同村山良子の損害
1 医療費 四〇、二四〇円
邦宏は本件事故により前頭骨骨折、脳挫傷、脳内出血の傷害を負い、直ちに古川市内の高橋整形外科医院に運ばれ治療を受けたが、同日午前二時死亡したため、治療費、死体処理費用、死体検案料として支払つた金額。
2 逸失利益 二一、六四一、三九四円
邦宏は、昭和二八年二月六日生れの健康な男子であり、鹿島台商業高校卒業後昭和四八年一月から東北アルプス株式会社古川工場に勤務し、一か月本給三七、二〇〇円、職能給一八、六〇〇円合計五五、八〇〇円の基本給及び賞与年間二四一、九五六円を取得していた。同人は本件事故より約一年前に入社したのであるが、会社内における勤務成績はきわめて良好であり、本件事故に遭遇しなければ、今後六〇歳の退職時まで少なくとも中程度の勤務成績をあげることができ、その間昇給を含め別表(一)記載の給与及び賞与のほか退職時の基本給一四四、九〇〇円の五〇・七倍の退職金を得ることができた。右給与、賞与の合計額より生活費(総所得の半額)を控除して、ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除した額一七、二八六、一四一円に右退職金より年五分の割合による中間利息を控除した額(ホフマン係数〇・三三八九)二、四八九、七〇五円の合計額が、同人の六〇歳退職時までの逸失利益となる。
同人はその後も六七歳まで別表(二)記載の所得を得ることができ、その間の生活費(総所得の半額)とホフマン式により中間利息を控除した一、八六五、五四八円を更に加えた金額。
3 慰謝料
イ 亡邦宏の分 三、〇〇〇、〇〇〇円
同人は本件事故により前記傷害を受け死亡したため、多大の精神的損害を受け、これを慰謝するには右金額を相当とする。
ロ 原告誠志、同良子の分 各一、五〇〇、〇〇〇円
右原告らは本件事故によつて最愛の息子を奪われ、多大の精神的損害を受け、これを慰謝するには右金額を相当とする。
4 葬祭費用 四〇〇、〇〇〇円
原告誠志は、本件事故により死亡した邦宏のため葬儀を行い、右金額を出費した。
5 弁護士費用 一、五〇〇、〇〇〇円
原告誠志、同良子は本件事故により右損害を蒙つたところ、被告は任意弁済に応じないため、仙台弁護士会所属弁護士渡邊大司に委任して訴を提起せざるを得なくなり、着手金、報酬金として一、五〇〇、〇〇〇円の支払いを余儀なくされた。これは原告誠志において負担することになつている。
(二) 原告橋本鉄男、同橋本さき子の損害
1 医療費 一九、〇〇〇円
敬一は本件事故により頭蓋底骨折、脳挫傷、脳内出血の傷害を負い、直ちに古川市内の高橋整形外科医院に運ばれたが、既に死亡していたため、死体検案料等として支払つた金額。
2 逸失利益 二一、六六九、一八六円
敬一は、昭和二九年一月五日生れの健康な男子であり、東北工業大学電子工学高校卒業後昭和四七年一〇月から東北アルプス株式会社古川工場に勤務し、一か月本給三五、七〇〇円、職能給一七、七〇〇円合計五三、四〇〇円の基本給及び賞与年間二七六、六三三円を取得していた。同人の会社内における勤務成績はきわめて良好で、本件事故に遭遇しなければ、今後六〇歳の退職時まで少なくとも中程度の勤務成績をあげることができ、その間昇給を含め別表(三)記載の給与、賞与のほかに退職時の基本給一四四、九〇〇円の五一倍の退職金を得ることができた。右給与、賞与の合計額より生活費(総所得の半額)を控除してホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除した額一七、三六九、八四〇円に右退職金より年五分の割合による中間利息を控除した額(ホフマン係数〇・三三三三)二、四六三、〇五三円の合計額が同人の六〇歳退職時までの逸失利益となる。
同人はその後も六七歳まで別表(四)記載の所得を得ることができ、その間の生活費(総所得の半額)とホフマン式により中間利息を控除した一、八三六、二九三円を更に加えた金額。
3 慰謝料
イ 亡敬一の分 三、〇〇〇、〇〇〇円
同人は本件事故により前記傷害を受け死亡したため、多大の精神的損害を受け、これを慰謝するには右金額を相当とする。
ロ 原告橋本鉄男、同橋本さき子の分各一、五〇〇、〇〇〇円右原告らは本件事故によつて最愛の息子を奪われ、多大の精神的損害を受け、これを慰謝するには右金額を相当とする。
4 葬祭費用 四〇〇、〇〇〇円
原告鉄男は、本件事故により死亡した右敬一のため葬儀を行い、右金額を出費した。
5 弁護士費用 一、五〇〇、〇〇〇円
原告鉄男、同さき子は本件事故により右損害を蒙つたところ、被告は任意弁済に応じないため、仙台弁護士会所属弁護士渡邊大司に委任して訴を提起せざるを得なくなり、着手金、報酬金として一、五〇〇、〇〇〇円の支払いを余儀なくされた。これは原告鉄男において負担することになつている。
五 相続関係
1 邦宏は二四、六八一、六三四円(四(一)1、2、3のイの合計)、原告誠志は三、四〇〇、〇〇〇円(四(一)3のロ、4、5の合計)、原告良子は一、五〇〇、〇〇〇円(四(一)3のロ)の損害を蒙つたが、原告誠志、同良子は右邦宏の相続人であり、各二分の一の相続分を有するので、各一二、三四〇、八一七円を相続取得したので、原告誠志の損害は一五、七四〇、八一七円、同良子の損害は一三、八四〇、八一七円となる。
2 敬一は二四、六八八、一八六円(四(二)1、2、3のイの合計)、原告鉄男は三、四〇〇、〇〇〇円(四(二)3のロ、4、5の合計)、原告さき子は一、五〇〇、〇〇〇円(四(二)3のロ)の損害を蒙つたが、原告鉄男、同さき子は右敬一の相続人であり、各二分の一の相続分を有するので、各一二、三四四、〇九三円を相続取得したので、原告鉄男の損害は一五、七四四、〇九三円、同さき子の損害は一三、八四四、〇九三円となる。
六 損益相殺等
(一) ところで、邦宏、敬一の両名は被告と好意同乗の関係にあるので、原告らの右損害よりその一割を減額する。
(二)1 原告誠志、同良子は本件事故により自動車損害賠償保障法による責任保険から一〇、〇四〇、〇五〇円を受領しているので、右のうち五、〇四〇、〇五〇円を原告誠志の損害に、五、〇〇〇、〇〇〇円を原告良子の損害に、各充当して控除すると、結局、原告誠志の損害は九、一二六、〇〇〇円(但し一、〇〇〇円未満は切捨)、原告良子の損害は七、四五六、〇〇〇円(但し一、〇〇〇円未満は切捨)となる。
2 原告鉄男、同さき子は本件事故により自動車損害賠償保障法による責任保険からそれぞれ五、〇一八、五一〇円、五、〇〇〇、〇〇〇円を受領しているのでこれを控除すると、結局、原告鉄男の損害は九、一五一、〇〇〇円(但し一、〇〇〇円未満は切捨)、原告さき子の損害は七、四五九、〇〇〇円(但し一、〇〇〇円未満は切捨)となる。
七 よつて被告に対し、原告誠志は金九、一二六、〇〇〇円、原告良子は金七、四五六、〇〇〇円、原告鉄男は金九、一五一、〇〇〇円、原告さき子は金七、四五九、〇〇〇円、及び右各金員に対する昭和四九年四月一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第二被告の答弁、主張
(請求の趣旨に対する答弁)
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決並びに予備的に仮執行の免脱宣言を求める。
(請求の原因に対する答弁)
一 請求原因事実第一項は認める。
二 同第二項中、被告が原告主張の日時、場所でその主張の自動車に邦宏、敬一を同乗させて運転中、自車をコンクリート電話柱に衝突させたこと、同人らがその際死亡したことは認めるが、被告が同人らをその傷害により死亡させたことは争う。すなわち、被告車がコンクリート電話柱に衝突した直後、被告車の直後を走行してきた門間秀哉運転の乗用自動車が、被告車の事故に気づき急制動の措置を講じたが間に合わず、被告車に衝突して停止するという二次的事故が発生した。したがつて、邦宏及び敬一の死亡が被告車の電話柱への衝突により発生したものか二次的事故によつて発生したものか因果関係が明らかでない。
三 同第三項中、被告車が被告の所有に属することは認めるが、その余は争う。
四 同第四項は争う。
五 同第五項中、原告らがそれぞれ亡邦宏、亡敬一の相続人であることは認めるが、その余は争う。
六 同第六項中、好意同乗の事実及び原告らがその主張額の保険金を受領した事実は認めるが、その余は争う。
七 同第七項は争う。
(被告の主張)
一 好意同乗による過失相殺の主張
(1) 被告と同乗者亡邦宏、同敬一は、いずれも東北アルプス株式会社古川工場に工員として勤務するものであり、親交のある間柄であつた。
(2) 事故前日、被告は、邦宏から「両親が留守なので家には誰もいないから自分の家に泊つて一緒に遊ぼう」と強く誘われたことからこれを断りきれず、やむをえず邦宏の言に従うことにした。そして邦宏は、被告の外に敬一、その他の友達をも誘い、退社後五、六名で古川市内の飲食店で遊びまわつた。その後、被告、邦宏、敬一らは、いつたん小牛田町にある邦宏宅に落着いたが、会社のおそ番の友達も呼んで来て一緒に遊ぼうということになり、再び被告車に同乗して古川市内に出て行き、勤務を終えて退社してきた門間秀哉ら二、三名を誘つた。そして、普通乗用自動車三台に分乗して古川市内から邦宏宅に向かつた。被告車を含む三台の自動車は途中追いつ追われつの競争をしながら走行していた。
(3) 被告車に同乗していた邦宏、敬一は、古川市内及び邦宏宅で飲酒して気が大きくなつていた(被告は飲酒していない)ことと、若者特有のスリルを味わいたいという気持から、被告の競争心をあおりたて、他の二台と追いつ追われつのドライブを楽しんでいた。その途上発生したのが本件事故である。邦宏、敬一は被告の競争心を制止するどころか、むしろ支援してその競争を楽しんでいたのである。
(4) 以上、邦宏、敬一らが被告車に同乗した経緯、目的、同乗後の挙動をみると、本件事故の発生原因は被告の責任にあるだけでなく、邦宏、敬一の責任も多大であるといわなければならない。したがつて、被告に賠償義務があるとしても、損害額の算定には右の好意同乗の事情が十分斟酌されるべきである(原告の請求を五〇パーセント減殺)。
二 逸失利益の算定について
ホフマン式計算方法の不合理性がさけばれ、その不合理性を解消するためにライプニツツ方式や修正ライプニツツ方式が裁判例として採用される傾向にある今日、本件においても、期間が長期にわたつているので、逸失利益の算定にあたつてはライプニツツ方式が採用されるべきである。
第三被告の主張に対する原告らの認否並びにこれに対する反論
一 第一項中、(1)は認める。(2)、(3)は不知。(4)は否認する。
本件は好意同乗であつても、同乗の態様、運行目的等からして賠償額の軽減割合は一割ないし二割程度に止めるべきである。
二 第二項は争う。
被告は、中間利息控除の計算方法としてホフマン方式が不合理である旨主張するが、きわめて失当である。
けだし、ホフマン方式はライプニツツ方式よりも算定される現在価額が大きくなり被害者救済の機能を果しうること、貨幣価値の顕著な下落傾向のある経済下においては、利息の控除のみを厳格にしてみても、算定の基礎になる収入、生活費、稼働可能期間等において推定的蓋然性によつて満足しているのであるから、全体として正確性を保持できないこと、逸失利益等の賠償金は利殖運用を前提として受領する性質のものでないこと、遅延損害金が単利法で算定されているのに対し、中間利息のみを複利で計算するのは不均衡であること等々からして、ホフマン方式の方が合理性があるからである。
第四証拠関係〔略〕
理由
一 原告村山誠志、同村山良子が訴外亡村山邦宏の父母であつてその相続人であること、原告橋本鉄男、同橋本さき子が訴外亡橋本敬一の父母であつてその相続人であることは当事者間に争いなく、弁論の全趣旨により、その各相続分は各二分の一であると認める。
二 被告が請求原因二項の日時、場所において、その所有する普通乗用自動車(被告車)に右邦宏、敬一を同乗させて運転し、県道を古川市方面から小牛田駅方面に進行中、道路左端のコンクリート電話柱に自車を激突させたこと、並びにその事故に際し右両名が死亡したことは当事者間に争いがない。
被告は右激突と被害者両名の死亡との因果関係を争うので検討する。いずれも成立に争いない甲第九ないし第二一号証、証人門間秀哉の証言、被告本人尋問の結果によれば、事故現場付近の道路はカーブになつており、最高制限時速は四〇キロメートルであつたのに、被告は時速八〇キロメートルくらいの速度で進行し、かつ進路を確実に保持して運転する注意義務を怠り、前示のようにコンクリート製電話柱に被告車を激突させ、その結果被告車は道路左端にほぼ直角の位置の状態で停止したところ、その直後後続して進行してきた門間秀哉運転の普通乗用車がこれを発見して急ブレーキをかけ、路上を約四五・八メートルスリツプさせて被告車の後部に衝突したことが認められるけれども、なお、被告車の前部は大破し、かつ衝突の態様からみてもその電話柱との衝撃は甚大なものと認められるのに対し、門間運転車は右衝突によりその左前部を凹損した程度でその衝撃の程度は被告車の電話柱に激突したそれに比すべくもないほど小さいものと認められ、被告車の右激突による衝撃により、助手席に同乗していた敬一は脳挫傷、脳内出血により即死し、後部座席に同乗していた邦宏は同日午前二時ごろ、脳挫傷、脳内出血により古川市駅前大通り五丁目一番一九号高橋整形外科医院において死亡したものと認められる。
三 そうすると、被告は自動車損害賠償保障法三条により、本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。
四 原告誠志、同良子の損害賠償請求額
(以下、△印は減額分を意味する。)
(一) 損害
1 医療費 四〇、二四〇円
成立に争いない甲第二三号証により請求原因四(一)1のとおりと認める。
2 亡邦宏の逸失利益 一四、九七四、三九八円
いずれも成立に争いない甲第三、第五号証の一ないし一七、第七、第八号証と証人蓑輪和夫の証言、原告誠志本人尋問の結果によれば、邦宏は昭和二八年二月六日生れの健康な男子であり、昭和四八年一月から東北アルプス株式会社古川工場(以下東北アルプスという。)に勤務し、本給、職能給の月給のほか年間賞与を支給され、会社の基準による昇給見込みを含めて六〇歳まで別表(一)の、その後六七歳までは別表(二)の年間総所得が得られたと推定され、その生活費として右総所得の半額を控除した残額と六〇歳における退職金(基本給の五〇・七倍)が将来において得られるであろう利益と認められる。
ところで、原告らは右逸失利益の計算にあたり、ホフマン式計算法が妥当であると主張するが、本件のように年数が約四〇年をこえる長期にわたり、かつ定期昇給等を加味した逸失利益の中間利息控除については、ライプニツツ式による複利割引法によるのがより妥当であると解されるので、これにより計算すると別表(一)、(二)のライプニツツ係数による計算金額及び後記退職金計算額となり、その合計額が亡邦宏の逸失利益の額となる。
(計算内訳)
別表(一)の金額合計 13,151,949円
別表(二)の金額合計 727,097円
60歳時の退職金 1,095,352円
計 14,974,398円
(退職金計算の内訳)
60歳時の月給(基本給) 144,900円、規定額=基本給の50.7倍ライプニツツ係数0.1491
144,900×50.7×0.1491=1,095,352円
3 慰謝料
亡邦宏の死亡により、同人固有の慰謝料と右原告両名が父母として請求しうる慰謝料は、請求原因四(一)3のとおりと認めるのが相当である。
イ 亡邦宏の固有の分 三、〇〇〇、〇〇〇円
ロ 原告誠志、同良子の分 各一、五〇〇、〇〇〇円
4 葬祭費(原告誠志の分) 四〇〇、〇〇〇円
原告誠志本人尋問の結果により右額を相当と認める。
5 損害額小計
イ 原告誠志の分
1、2、3のイの各二分の一、3のロ、4の合計 一〇、九〇七、三一九円
ロ 原告良子の分
1、2、3のイの各二分の一、3のロの合計 一〇、五〇七、三一九円
(二) 弁済
原告誠志、同良子が本件事故により、自動車損害賠償保障法による責任保険から一〇、〇四〇、〇五〇円を受領したことは争いがないので、これを次のとおり損害に充当する。
イ 原告誠志の分 △五、〇四〇、〇五〇円
ロ 原告良子の分 △五、〇〇〇、〇〇〇円
(三) 好意同乗による減額
亡邦宏、亡敬一が被告と好意同乗の関係にあることは当事者間に争いがなく、事故の態様については判示二項認定のとおりであるところ、同項に示した証拠によると、次の事実が認められる。
被告及び敬一、邦宏、門間秀哉らは東北アルプスの従業員で友人関係にあり、事故前日の三月三〇日被告は勤務を終えて帰宅し、遊ぶため被告車を運転して古川市内の敬一宅を訪れ、同人を乗せて同市内の喫茶店で邦宏や女友達らと合流し、市内で遊び廻つた後、邦宏の誘いで被告は右両名を乗せ小牛田町内の同人宅へ落着いたが、翌日は日曜日でもあるので、おそ番勤務の友達を誘つて遊ぼうということになり、再び被告は被告車に両名を乗せ古川市内に戻り、翌三一日午前零時一〇分ころ、勤務の終わつた門間秀哉らと東北アルプス近くで待ち合わせた。そこより小牛田町の邦宏宅へ向かうべく、門間運転車、被告車(右両名が同乗)、同僚の西塚運転車の順に分乗して出発したが、途中、被告車は猛スピードで門間運転車を追い抜き、本件事故をひきおこしたものである。
以上のような被告車の運行目的、同乗の態様、被告と被害者両名の関係などを合わせ考えると、公平の見地から過失相殺の法理を準用し、前示の各損害額の三〇パーセントを減額するのが相当である。
イ 原告誠志減額分 △三、二七二、一九五円
ロ 原告良子減額分 △三、一五二、一九五円
(四) 弁護士費用(原告誠志の分) 五〇〇、〇〇〇円
原告誠志が本件訴訟を弁護士に委任した着手金、報酬のうち、右金額を被告に負担させるのが相当である。
(五) (一)ないし(四)の増差結果
イ 原告誠志の分 三、〇九五、〇七四円
ロ 原告良子の分 二、三五五、一二四円
五 原告鉄男、同さき子の損害賠償請求額
(一) 損害
1 医療費 一九、〇〇〇円
成立に争いない甲第二四号証により請求原因四(二)1のとおりと認める。
2 亡敬一の逸失利益 一四、八一二、七九一円
いずれも成立に争いない甲第四、第六の一ないし一九、第七、第八号証と証人蓑輪和夫の証言、原告鉄男本人尋問の結果によれば、敬一は昭和二九年一月五日生れの健康な男子であり、昭和四七年一〇月から東北アルプスに勤務し、本給、職能給の月給のほか年間賞与を支給され、会社の基準による昇給見込みを含めて六〇歳まで別表(三)の、その後六七歳までは別表(四)の年間総所得が得られたと推定され、その生活費として右総所得の半額を控除した残額と、六〇歳における退職金(基本給の五一倍)が将来において得られるであろう利益と認められる。右の中間利息控除計算については、判示四(一)2に説明したとおりライプニツツ式がより妥当と解されるので、これにより計算すると、別表(三)、(四)のライプニツツ係数による計算金額及び後記退職金計算額となり、その合計額が亡敬一の逸失利益の額となる。
(計算内訳)
別表(三)の金額合計 13,070,975円
別表(四)の金額合計 692,451円
60歳時の退職金 1,049,365円
計 14,812,791円
(退職金計算の内訳)
60歳時の月給(基本給) 144,900円、規定額=基本給の51倍ライプニツツ係数0.1420
144,900×51×0.1420=1,049,365円
3 慰謝料
亡敬一の死亡により同人固有の慰謝料と原告両名が父母として請求しうる慰謝料は、請求原因四(二)3のとおりと認めるのが相当である。
イ 亡敬一の固有の分 三、〇〇〇、〇〇〇円
ロ 原告鉄男、同さき子の分 各一、五〇〇、〇〇〇円
4 葬祭費(原告鉄男の分) 四〇〇、〇〇〇円
原告鉄男本人尋問の結果により右額を相当と認める。
5 損害額小計
イ 原告鉄男の分
1、2、3のイの各二分の一、3のロ、4の合計 一〇、八一五、八九五円
ロ 原告さき子の分
1、2、3のイの各二分の一、3のロの合計 一〇、四一五、八九五円
(二) 弁済
原告鉄男、同さき子は、本件事故により自動車損害賠償保障法による責任保険から一〇、〇一八、五一〇円を受領していることは争いがないので、これを次のとおり損害に充当する。
イ 原告鉄男の分 △五、〇一八、五一〇円
ロ 原告さき子の分 △五、〇〇〇、〇〇〇円
(三) 好意同乗による減額
判示四(三)の理由により、原告らにつき、前示損害の三〇パーセントを減額する。
イ 原告鉄男の分 △三、二四四、七六八円
ロ 原告さき子の分 △三、一二四、七六八円
(四) 弁護士費用(原告鉄男の分) 五〇〇、〇〇〇円
原告鉄男が本件訴訟を弁護士に委任した着手金、報酬のうち、右金額を被告に負担させるのが相当である。
(五) (一)ないし(四)の増差結果
イ 原告鉄男の分 三、〇五二、六一七円
ロ 原告さき子の分 二、二九一、一二七円
六 そうすると、原告らの本訴請求中、原告誠志については金三、〇九五、〇七四円及びこの内弁護士費用を除いた二、五九五、〇七四円に対する昭和四九年四月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金、原告良子については金二、三五五、一二四円及びこれに対する右同日より支払済みまで右同率の遅延損害金、原告鉄男については金三、〇五二、六一七円及びこの内弁護士費用を除いた二、五五二、六一七円に対する右同日より支払済みまで右同率の遅延損害金、原告さき子については金二、二九一、一二七円及びこれに対する右同日より支払済みまで右同率の遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容するが、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小島建彦)
別表(一) 亡邦宏の逸失利益(60歳まで)計算表
<省略>
別表(二) 亡邦宏の逸失利益(61歳~67歳)計算表
<省略>
別表(三) 亡敬一の逸失利益(60歳まで)計算表
<省略>
別表(四) 亡敬一の逸失利益(61歳~67歳)計算表
<省略>